エネルギー安全保障と地熱

日本の地熱資源ポテンシャルの現状と開発ロードマップ:エネルギー安全保障強化への貢献

Tags: 地熱発電, エネルギー安全保障, 資源ポテンシャル, 開発ロードマップ, 政策課題

はじめに

日本のエネルギー安全保障は、その大半を海外からの化石燃料輸入に依存している現状において、極めて重要な政策課題であります。エネルギー自給率の低さは、国際情勢の変動や供給網のリスクに直結し、経済活動や国民生活に脆弱性をもたらします。このような状況下で、国内に賦存する再生可能エネルギー資源の最大限の活用は、エネルギー安全保障を強化し、危機耐性を高める上で不可欠な要素と考えられます。

特に、日本は世界有数の火山国であり、豊富な地熱資源を有しています。地熱発電は、天候に左右されにくく安定した出力が得られるベースロード電源としてのポテンシャルを持ち、国産エネルギー源としてエネルギー自給率の向上に大きく貢献しうる技術です。本稿では、日本の地熱資源ポテンシャルの現状を評価し、そのポテンシャルを実質的な発電能力へと繋げるために必要な開発ロードマップ、そしてそれがエネルギー安全保障強化にどのように貢献しうるかについて、政策的な視点から考察いたします。

日本の地熱資源ポテンシャルの概要

日本列島は環太平洋火山帯に位置し、活発な火山活動に伴う豊富な地熱資源を有しております。経済産業省やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)によるこれまでの調査では、日本の地熱資源量は世界第3位とも言われるほどの膨大なポテンシャルを有していることが示されています。資源タイプとしては、比較的高温の蒸気や熱水を伴う火山性地熱系だけでなく、非火山性の地熱系や高温岩体地熱発電(EGS: Enhanced Geothermal Systems)のポテンシャルも指摘されています。

しかしながら、この膨大なポテンシャルのうち、実際に発電に利用されているのはごく一部に過ぎません。2022年度末時点の日本の地熱発電設備容量は約61.6万kWであり、これは資源ポテンシャル全体から見れば非常に限定的な水準にとどまっています。開発が進んでいない背景には、探査・開発におけるリスク、コスト、規制、地域社会との関係など、様々な課題が存在します。

地熱資源ポテンシャル実現に向けた開発課題

地熱資源ポテンシャルを実質的な発電能力へと繋げるためには、多岐にわたる課題の克服が必要です。

1. 技術的・物理的課題

2. 経済的課題

3. 制度的・政策的課題

4. 社会・環境的課題

ポテンシャル実現に向けた開発ロードマップの要素

これらの課題を克服し、日本の地熱資源ポテンシャルをエネルギー安全保障強化に繋げるためには、以下のような要素を含む総合的な開発ロードマップが必要と考えられます。

エネルギー安全保障への貢献

これらのロードマップに基づき地熱開発が促進されれば、日本のエネルギー安全保障は大きく強化されます。

結論

日本は世界有数の地熱資源ポテンシャルを有しており、その開発促進はエネルギー安全保障強化のための重要な柱となります。しかし、探査・開発リスク、高コスト、複雑な規制、地域合意形成など、多くの課題が存在することも事実です。

これらの課題を克服し、地熱資源ポテンシャルを最大限に引き出すためには、リスク低減のための支援、規制改革、地域共生モデルの構築、技術開発、人材育成など、多岐にわたる施策を統合した実効性のある開発ロードマップが必要です。このロードマップを着実に実行することで、地熱発電は国産の安定したベースロード電源として、日本のエネルギー自給率向上と危機耐性強化に大きく貢献することが期待されます。今後の政策立案においては、地熱開発を取り巻く現状の課題を深く理解し、長期的な視点に立った戦略的なアプローチが不可欠であると考えられます。